紗綾 × 紗綾 | ふたりの紗綾の秘密と自己陶酔のクロニクル 5
今、わたしはふたりになっている。
ほかの人のいない、とても広い露天風呂にふたりのわたしがいる。
「ねえ、どうしてかな?」
「なに?」
「わたしがふたりになったでしょ」
「うん」
「不思議だよね。なんなんだろうね」
わたしは思い出しながら話した。
「本を読んでたの」
あのとき。
風呂にはいって、Tシャツを着て、家の自分の部屋で机に向かって本を読んでいたら、軽く目が回るような感覚がした。
少し休もうかなと、ベッドにうつぶせに倒れ込んだ。
揺れ動くような感覚。
10分くらいそのままで過ごした。弱い地震が続いているような感覚。
「わたしも同じ」
「めまいがした?」
「うん、ぐるぐると。ベッドに入った」
「同じことを経験してるんだ」
「それで、10分くらいしたら、ベッドに他の人がいるなって気づいて」
「触ったよね」
左の腕に何かが触れる感触があった。
薄目をあけて見ると、女の子の背中が見える。
誰?
目の前の女の子の髪の長さは自分と同じくらいに見える。着ているTシャツは自分の着ているのと同じだ。
女の子が身を捩ってこっちを向く。
「わたしがいた」
「うん、わたしだったね」
「わつぁしだよね」
「ベッドの中でふたりになったのかな」
「分身の術みたいな」
「ニンジャだ」
ベッドの上で身を捩って、女の子はわたしの方に顔を向けた。
顔を見た。
わたし・・・
女の子はわたしの顔でこっくり頷いた。
わたしはわたしに体を寄せてきた。
抱きついてきた。思わずわたしも手を回して抱き合った。
湯船から上がって洗い場にふたりして座った。
「洗ってあげようか」
「洗って」
タオルにボディーソープを付けた。
温泉だからかあまり泡が立たない。
目の前のわたしの背中にそっと置いて軽くこする。
「くすぐったい」
「我慢しなさい」
背中から脇の下にタオルを移動させると、わたしは身をよじりながら、笑いをこらえている。
「お返しね」
わたしはわたしの右手からタオルを取り上げた。
「座って」
そう言われたので、交代して座った。
ボディソープを含ませたタオルが背中を上下する。
くすぐったい。
脇の下二タオルが移動してくると我慢できなくなって笑った。
タオルが胸に回ってきた。
わたしは思わず、「あ」と声を出した。
「あ、ごめん」
恥ずかしくなって、私と私は別々にからだを洗った。
840ピクセル版。
部屋に戻った。
冷たい水を飲んでから、二人で座椅子に座る。
向かい合っている。
〈自分〉を見ている。
じゃあ、〈自分〉を見ているこのわたしはいったい誰なんだろうかと一瞬思ったけれどもわたしはわたしだ。
混乱した。
「混乱するよね」
わたしは頷いた。
以下、1680ピクセル版。
自分たち、わたしがわたしを理解し合う旅は始まったばかりだ。
書いてるテキストは小説ではない。
これまで、文章を書くということが全くもってできなかったので、まともに書けるようになるためのリハビリテーションで、頭の中にある思考、いや、妄想をできるだけ書き留めようという試みだ。
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