紗綾 × 紗綾 | 小学生の頃、紗綾は「もうひとりの紗綾」と出会っていた Part1
「こんにちは」
紗綾は隣りに座っている女の子に顔を向けてあいさつをした。
「こんにちは」
5分くらい何も言わなかったと思う。
わたしはモデルのしごとをしていて、今日は撮影でバリ島のホテルにいる。
夏休みなのでだいじょうぶ。
ママが一緒に行くよ、というのを断って一人でパスポート持ってやってきた。
これからずっとモデルのしごとをするんだから、海外行きとか自分ひとりでやらないとね。
ホテルには大きな庭とプールがある。
宮沢りえも撮影に来たことがあるんだよとヘアメイクさんが言っていた。
メイクも終わって、水着も着てカフェのテーブルで待っていた。
カメラマンさんの助手さんが大きなバッグからカメラとかライトとかを準備してるのを見ながらオレンジジュースを飲んでいた。
カメラマンさんが来た。長いもじゃもじゃ頭におヒゲで背が高い。
長い棒が歩いているみたいだ。
カメラマンさんのうしろからパーカーを着た女の子が付いてきている。フードで顔を隠している。
「ちょっと紹介するよ」
女の子がわたしの前に立った。
フードを取った。
わたしだった。
どう見たってわたし。
え?
わたしとわたし?
わたしにそっくりなその子は、わたしの隣に座った。
パーカーを脱ぐと、わたしと同じ水着を着ている。
「すごいな、まったく同じに見える」
長いもじゃもじゃ頭におヒゲで背が高いカメラマンさんがひっくり返った声で言った。
「ちょっと時間をあげるから、ふたりとも仲良くなってみて」
それからカメラマンさんはアシスタントさんやヘアメイクさんやスタイリストさんに、みんなちょっと外して、と言ってプールから引き上げていった。
なんか緊張している。
胸がドキドキしている。
やっとのことで隣に座っているわたしをチラリと見たら、わたしそっくりな女の子もわたしをチラリと見てる。
しばらくの間、見たり見るのをやめたりした。
あいさつしようか、と心のなかで言いながら見た。
そっくりな子もわたしを見た。
いいよ、という声が頭の中でした気がする。
「こんにちは」
紗綾は隣りに座っている女の子に顔を向けてあいさつをした。
「こんにちは」
「わたし、紗綾っていいます、初めまして」
初めまして、って言うとき、ちょっと緊張したような気がした。
「わたしも、紗綾っていいます、初めまして」
女の子はびっくりした表情で言ったあと、にっこり笑った。
わたしも笑った。
同時に立って、抱き合った。
「よろしくね」
「よろしくね」
抱き合ったのがきっかけで緊張しなくなった。
空いているテーブルに向かい合って座った、
ホテルのひとがオレンジジュースをふたつ持ってきてくれた。
たぶんカメラマンさんが注文してくれたんだと思う。
わたしたちはクイズの出しっこをした。
生年月日は。星座は。
お父さんお母さんの名前は。おじいちゃんおばあちゃんの名前は。
担任の先生は誰。保健室の先生の名前は。
好きな食べものは。嫌いな食べものは。
初めて好きになった男の子の名前は。
最初に買ってもらったゲームソフトの名前は。
・・・・・・・
ふたりとも同じ答え。
カメラマンさんが入ってきた。
「仲良くなったかな。自分どうしだから、仲が良くないと困るけれどもね」
「君もこのコも紗綾だよ。理由はよくわからないけど、君はふたりいるようになった。
さあ、まずはおしごとをしよう」
撮影が始まった。
むかし創った偽双子画像の大半が、データを保管したHDDが壊れたために失われた。
しかし、紗綾の画像は別なメディアにバックアップしてあったので消失しなかった。
アーカイブをまとめるついでに見直してみると、俄然新しいのを創りたくなった。
それも最初期、小学生だった頃だろうか。
〈最初からふたり存在した紗綾〉・・・
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