「どっちがどっちだっていいじゃない」
「どっちもあなたがすきなあたしだし」

そう、ふたりに増えた彼女(たち)がぼくに向って言って笑った。

ぼくたちは待ちに待った旅行に、この南の島にやってきた。

これから彼女と長い時間を過ごす。
僕の趣味は写真の撮影で、彼女をモデルにしてずうっと写真を撮っている。

「どこか南の島なら、大胆なことするかも」

そう言われたので、スケジュールをマッハの速さで立てて飛行機とホテルを予約した。
閑散期でそれほど高くないのがラッキーだった。

飛行機から降りて、バゲージクレームで荷物のピックアップをした。
彼女のスーツケースが流れてきた。
ふたつだ。
まったく同じ外観のスーツケースがふたつだ。
彼女は、目印にと、ケースの蓋にゴジラのでかいステッカーを貼っている。
それがふたつ。
彼女がピックアップすると、続けてべつの彼女がもう一つのスーツケースをピックアップした。

彼女、また彼女?

スーツケースのバーに手を添えた、全く見分けがつかない彼女がふたりいた。

「こんにちは」
「あ、こんにちは」
と彼女どうしが挨拶した。

「おふたりでご宿泊に変更でございますね、セミスイートルームにエキストラベッドをご用意できますから、まったく問題ございません」
フロントの男は無表情で抑揚も付けないで言った。
宿泊カードに記入し、ふたりの彼女の、もうひとりの名前は双子姉妹にありがちなひと文字だけ違う名前をでっちあげて書いた。
カードを差し出してデポジットを払った。
キーとミールクーポンを受け取った。

行こうか。
と、ぼくは同じスーツケースを持ってるふたりの彼女に言った。

「お客さま方」
「はい」
「職業柄、何組も双子のお客様をお迎えしましたが、お客さまおふたりほど、見分けの付かないお客様はおりませんでした」
「ええ、よく言われます」
とあたしにそっくりの子が言った。
「ね、おねえちゃん」
「そうね」
「どうぞ、ごゆっくり」

鏡張りのエレベーターで上がる。
無数に増殖した彼女が映る。

広いセミスイートルームにはキングサイズのダブルベッドがあって、もう一個、エキストラベッドも入っていた。
「わたしとわたしは、大きなベッドに寝るよ」
「そう決めたから」

はい、わかりましたと言った。

ふたりの彼女は気が合ったようで、一緒にバスルームに入ってしばらくキャーキャー言ってから出てきた。

「長いな。何してたんだよ」
「いいことだよ」

ふたりになった彼女を撮影することになった。

ふたりは、なんというか、恋人どうしのような振る舞いをした。
愛し合っている。
それがはっきりわかりようなしぐさ、目線、動きだった。

ぼくは、彼女がふたりに増えたあと、自分は体力が保つかどうか心配した。ふたり相手で夜を過ごすのだから。

しかし、もうひとりの自分が現れて、彼女はぼくへの関心を急速に失ったようだった。
もうひとりの自分とずうっと一緒に過ごし、ときどきキスを交わしたり子猫のじゃれ合いのようにふざけてさわりっこしたりした。

写真にも、おたがいに対する熱がしっかり写っている。

ふたりは恋に落ちてしまったみたいだ。

自分に?

そう、自分に。

ぼくは失恋したのだろうか。









今回のエントリーの、ふたつめの同一人物カップル。

こっちはエロティックな感じにならない、仲良しなスナップのようになった。

裸もいいけど、下着やスイムスーツも悪くないですよね。



南の島でヌードって悪くないですね。

もっと創れたらいいな。