「案外、世界っていい加減にできているのだと思う」
と、わたしと同じ姿の女は言った。
〈自分〉の声を客観的に聞くという状態にはいまだに違和感がある。
こんな声なのか、わたしはって、思ってしまう。
「いい加減ってどういうこと」
「わかるでしょ」
ちょっと突き放した感じの口調になるのも
〈自分〉の特徴だな。
あまり良くないかもしれない。
「わたしがふたり存在しているから」
「そう。同一の個体がふたつ、同一の空間に存在することを許容するなんて、世界はいい加減な証拠だと思う」

わたしは私と見つめ合った。

世界とは、いったいなんだろう?

これ、お気に入りのひとつ。

自分どうしだから、舐めた飴だって共有できるのだ。
という画ができて、とてもうれしかった。

同じ人物がふたり、怪しい雰囲気になって・・・というのはいっぱい創りたいと絶えず願ってるんだけれどもなかなか作れない。






いい加減な世界。
そう、私がふたり存在している世界だ。

わたしとわたしは、身体中を仔細に比較してみた。
からだのいろいろな部位のサイズも、ほくろの位置も、指紋も同じだったし、性器の形状も同じ。

中身はどうだろう。

記憶を照合してみた。
記憶を遡って同じ記憶をもっているかどうかを比べていく。
高校の頃に好きになった先輩女子に思い切って告白したら、先輩が、
わたしは男性が好きなの。もう相手もいるんだよ。
そう冷たく言われたことを思い出して、悲しくなって、わたしはわたしと抱き合ってしばらくの間、泣いた。
その時、からだに衝動がはしったけれども、わたしとわたしはそれを抑え込んだ。

わたしとわたしはおなじ人物と言っていいだろう。

私はどういうシチュエーションで私と会ったかについて語りたい。

わたしはキーボードを装着したiPadでレポートを書いていた。
厚めのカーペットに座って、ソファを背もたれに、木製テーブルにおいたiPadに向かっていた。
キーボードを打つ手を止めて、大きく呼吸をした直後、ぐらり、と揺れる感触があった。
一瞬、意識が真っ白になってカーペットに倒れ込んだ。

気を失っていたらしい。
目を閉じたままでいた。目眩を恐れたのだ。

地震?
いや、スマートフォンの地震警報は鳴らなかったし、家のなかのものも揺れてはいない。
目を閉じたままで左手で近くを探ってみた。
なにか、動くものを掴んでしまい、悲鳴を上げた。
同時に別の悲鳴が聞こえた。

思わず目を開けた。
わたしが横になっていた。

別のわたしだ。

そしていま。
途方に暮れている。
サイエンス・フィクションには、例えば並行世界だとか、別な時間から来たとか、異性物のメタモルフォーゼとか、クローニングとか(これはダメだ。クローンを創ったときの年齢プラス1歳の年齢差が生じる。生物学的に同一個体だとしても、別人になっているのと同じだ)、人間を模倣して作られた人造人間だとか、同一存在が生まれる理屈は存在しているが、みんなフィクションだ。

わたしたちはふたりいる。

わたしたちは、このいい加減な世界でどう生きていけばいいのだろうか。
親は、娘が二人になったことを受け入れるだろうか。
学校はどうしたらいいんだろう?
社会は、ふたりになったわたしを受容するのだろうか?

困った。

同一CPとかSelfcestのシチュエーションをあれこれ思い浮かべてはメモのように書いている。
考えうるだいたいのシチュエーションは出尽くしているし、こっちはアイデアが枯渇してるので、もう同しようもないな、と思う。