彼女(ら)は同一人物 15
カメラマンは「クローンアイドルユニット」、同じ女の子が二人になったという触れ込みのふたりの写真集を作るためにシャッターを切っている。
物語というか妄想の連なりで頭の中がいっぱいだ。
小悪魔だな、分身して誘惑してくる小悪魔。
カメラマンは、同じ顔の女の子ふたりが不機嫌そうな顔をしているのに見とれてしまった。
その表情をファインダー越しに見ながら、妄想でふたりを会話させている。
えーとあたしとあたしって同一人物ではございますが、ここは違う表情を作ってみたいところです。
え。違う表情を?できるのかな、そんなこと。
できるはずよ、やってみようよ。
右の手と左の手で、別々の動きができるでしょう。それと同じこと。だから、あたしとあたしの意識を統合して、ひとつの意識になって、ふたつの肉体を動かしてみる。
意識を統合するなんて、どうやればいいの。
こうやればいいの。
額と額を合わせる。手と手を握り合う。
やってみよう。
まだ撮影前の、待ち時間にあたしとあたしは、額と額をくっつけてみた。
すると二人の頭の中では〈意識体〉になったあたしがあたしと向き合ってキスをするような絵が思い浮かび、光が充満して溶けていく。
ひとつの意識体となったあたし=あたしは、二つの肉体を思念だけで操れることに気付いた。
こっちの体は笑ってる。
こっちは、怒った表情になってる。
こんどはふたつの体にうっとりとした表情を浮かべさせて顔を近づけさせて。
その時に名前が呼ばれていることに気づく。
「なにか考え事してたんですか」
「指示してください」
と、二人が立て続けに言った二人が立て続けに言った。
ちょっと違う表情をしていた。
微妙に表情も変える〈クローンアイドル〉。
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