グラビアアイドルがいる。

容姿がまったく同じだという、ふたりの女の子のアイドルグループ。
ふたりは、わたしたちは同じ、とか、わたしたちはひとりと言っているという。
「わたしは宇宙から来た」と主張するアイドルが昔いたが、そんな類のアイドルなんだろうか。

その変わった二人組グラビアアイドルにインタビューすることになった。

芸能事務所の会議室で待っているとドアが開いた。

「おはようございます」
「おはようございます」

声が二重に聞こえた。
3人入ってきた。

ひとりは地味な顔立ちの、マネージャーと思われる女性。
あとに続いて入ってきた女の子がふたり。

唖然とした。
女の子ふたりは、完全に同じ顔で同じ体型で同じ髪型で同じ服で同じ靴を履いていた。

おれは今日、新人アイドルを取材するために芸能事務所に来た。
5日前に、音楽系ウェブメディアからの依頼だった。

資料とかありますか、と聞いたら、まったくの新人でなんの資料もないし事務所の宣材もまだできてないといってるんだ。
当日ぶっつけということになりますね。

グラビアアイドルは、二人組だった。
特徴は、ふたりがまったく同じ姿かたちをしていることだという。

で、その通り、同じ人間としか思えない。
ちょっとした動作、微妙な表情

「このふたりは同一人物なんです。少なくともふたりと、もちろんわたくしもそのように主張しています」
若い女性マネージャーは言う。
「この娘たち、スカウトしたときはひとりだったんですよ」
二人は顔を見合わせて同時に同じ角度でうなずいた。
「そうです、わたしたちは」
「ある日この事務所で」
「二人いることになったんです」






マネージャーは言った。

「この部屋で、スケジュールのお話をしていたときのことです。
この時点ではこの子はひとりでした。
彼女がトイレに行って帰ってきました。その後、30秒くらいたったら、ドアが開いてもうひとり、トイレから彼女が帰ってきたのです。
それはもう、驚きました。
たまたま社長もいたのですが、腰を抜かしてしまいましたよ。

ふたりに訊くと、どっちも同じ名前を名乗りました。
できる限り、いろいろ調べてみましたが、同じ人物と言って間違いないようです。

会議の結果、話題になるだろうとふたり組アイドルとして売り出そうと決めたのだという。
「おもしろいじゃないですか」
「わたしが2人いて一緒にお仕事なんて」
「ね」
同じ顔、同じ髪の長さ、同じ服のふたりの女の子がお互いを見ながら言った。
その笑顔はまったく同じに見えた。

「いろいろ面白いことを仕掛けていこうって、社長とも話してるんですよ」
マネージャーは明るい声で言った。

「自分がふたりいるというのはどんな気持ちですか」

「最初は」「びっくりしましたね」
一人が途中まで言って、継ぎ目なくもうひとりが言葉を続ける。
「でも大丈夫」「ああこの子もわたしなんだってすぐわかったので」
「自分を見るなんて」「そんな経験、ふつうないじゃないですか」
「でも、ああ、これが自分なのか」「ちょっとかわいいかもって」
「それでね」「うん」
「うちに帰ってから」「一緒にお風呂に入って」
「いろんなところを」「比べてみて」「びっくりしたよね」「うん」
「あたしたちって」「同じだなって」
「一緒に」「ベッドに入って」「おしゃべりして」

目を閉じていたら、一人で話している用に勘違いしたと思う。
他愛のない話ばかりだが、ふたりは「ふたりになったこと」を受容したようだ。

事態は急変した。
「プロジェクトは中止です。
彼女たちはいなくなりました」
短い録音メッセージがスマホに入っていた。
マネージャーの声だ。淡々としている。

彼女たちの記事は世に出ることがなかった。

ちょっと調べたが、消息がつかめなかった。
あるライターが、「ふたりとも別の世界に行ったのかもしれない」と言った。
もう一人の彼女が本来いた方の世界に。

ときどき、もう消えてしまったアイドルの画像を探し、偽双子に仕立てる。
「もしかしたらこの娘はふたりいたのではないか」などというあらぬ妄想に浸るのである。