沙織と沙織は京都のもと割烹旅館にいる。

そこは営業はしていない。
かつては、料理の美味しさでは評判だったそうだ。
今は、タカヤマ先生の別宅なのだ。通いの世話人がいて1日に3時間、お掃除などをして帰っていく。ちょっと太めなおばあさんで、手際よく掃除する。

タカヤマ先生は、沙織と沙織が値段の安さが取り柄のチェーン居酒屋で声をかけてきた。

「おれは目がおかしいのかな。女の子が二重になって動いているんだけど」
「はい、二重になりました」
「わたしたち、同じ人間です」
「同じ人間なのか」と、白髪の長髪を縛って、メガネを掛けているインテリ崩れのような年齢不詳のおっさんだ。「おもしろいな」
と、かれは沙織と沙織の席にやってきて、ここに座っていいかな、と言いながら座った。沙織の片方は移動して、もう片方と並んで座った。
「わあ、まるっきり同じ顔かたちだな、ほんとうだ。同じ人間だな。双子だとここまで同じっていないんじゃないか」
「あら、タカヤマ先生、ナンパしてるの?」
と女子の店員さんが訊いた。常連らしい。
「まだ、これからだよ。レモン・チューハイ、レモン多めでくれないかな」
で、沙織と沙織はタカヤマ先生にご馳走になることとなった。
金持ちそうなのに、なんで居酒屋で食事するんですか、と訊いたら、なあに、おれの舌では高級な料理の味なんてわからないからな、だから居酒屋でいいんだよ、と笑って答えた。
今晩のホテルをまだ決めていないと言ったら、タカヤマ先生は鍵を取り出して渡してくれた。
「良かったら使ってくれ。何日いてもいい。いずれ、〈ふたりいる〉ことについて話を聞かせてくれ」

ということで、自分同士というカップルで密会は古式ゆかしい和式の元旅館で行うことになった。



 



むかし公開したものを創り直したりした。
技術が全然ぜんぜん向上しなくてうんざり。