今野杏南が今野杏南とこっそり温泉宿にでかけた。
本人同士だけど、宿の人が名前を書いてくださいと出してきた書類には、一人の方の名前を偽名にした。

仲居さんが、よく似ていらっしゃいますね。
目を丸くしてそう言ったので、ええ、みんなにそう言われますよと返した。

閑散期の平日、昼間の、古い和式温泉宿。

杏南と杏南は、貸切状態の露天風呂に入って、お互い遠慮がちに裸を見た。
湯船に入っていると気持ちよくなって、すこしだけ大胆な気持ちになってからだをくっつけて、もう少しでキスしそうになったけれど、そのタイミングで何人か宿泊客が入ってきたのでしなかった。

風呂から上がって、杏南の一方がスマートフォンを取り出してグニュグニュと曲がる金属製の脚をつけて床に置いた。

「ふたりでいるところを写真に撮りましょうよ」

と言った。







セルフタイマーを使って、何枚も写真を撮るけれど、自分と自分がいるということに二人ともにぎこちなさを覚えている。
〈こころ〉の声がなんとなくふたりの自分の間で行き来していて、キスしたいキスしたらいけないと心が揺らぐ。