ぼくは、夢を見た。
故郷にいる夢だ。

夢のなかの故郷の景色は、ぼくの幼いころと何ら変わってはいない。
ぼくは街を歩いている。
街並みも、ぼくが故郷を離れた17歳の頃のままだ。
街を歩くと、商店もそのままだ。
駄菓子屋の愛想の良い小太りのお婆さんも、あの頃と変わっていない。
本屋の意地悪な痩せぎすの老店主もそのまんまだ。奥さんが店番のときは、エロ本をこそこそめくったりしたものだ。そんなところを店主に見つかると、ひどくバツが悪いものだった。
いま、出前用のホンダ・カブでぼくを追い抜いて行ったのは、来々軒の親父さんだ。数年前に訃報を聞いたはずの親父さんも、夢のなかではいきいきしている。












ぼくは、かつて高校に通った道を歩いている。
後ろから、ぼくを呼ぶ声がした。
振り返ると、制服姿の真由美がにっこりと笑みを浮かべて手を振っている。
彼女がなにか言いかけた。

ここで、夢の唐突さで場面は切り替わる。
ぼくと真由美は旅館の一室に入る。

かつて片思いしたあの娘が、ふたりになっている。
ぼくはどうやら、真由美と一緒に旅行しているようだ。
真由美がふたりいる。

 



私、私のことが大好きなの。
ふたりがそういった。