一軒目の店でワインを飲んで、軽く酔ってふらふらと街なかを歩いている。
彼女は、さっきから自分にぶつかりながら歩く人がいることに気づく。
その女のひとは、あっ、と短く叫んだ。
その声で思わず視線を向けると、そこに自分がいた。
ふたりとも思わず立ち止まって見つめ合った。

その次に二人がほぼ同時に取った行動は、スマートフォンを取り出して、自分にそっくりな女を写真に撮ろうとすることだった。
どうぞ、あなたからどうぞと言葉をかわして、ふたりとも「自分にそっくりな女」を撮影し、そのあとはふたりして自撮りをした。

ふたりとも、「自分にそっくりな女」がもうひとりの自分で、自分がふたりに分かれてしまったことに気づいていた。
しばらく、肩を並べて歩いた。
話をすると同じ記憶を持っていることがわかる。

「しばらくしたら、またひとりに戻れるかな」
片方がそう訊いて、もう片方がさあ、どうかな、と小さく答えた。