彼女(ら)は同一人物 9
わたしだ、わたしがいる。
私の目の前に、わたしの顔がある。
目を閉じている。
鼻呼吸しているのを感じる。
目の前のわたしは、なんか恥ずかしそうでいるけど、ある期待感にときめいている。
それを感じる。
わたしもおんなじだ。
撮影の仕事であることをつい忘れそうになる。
これは、「クローンアイドルユニット」としての初めての仕事だ。
わたしはわたしと並んで、カメラマンに挨拶をした。
はじめまして、クローンアイドルユニットやりますのでよろしくおねがいしまーす。
「クローン・・・はあ、クローンね、おもしろいね。よろしくね」
40くらいのカメラマンは、そういうなり、わたしとわたしを交互に見た。
うーん、とカメラマンは唸ってしばらくの間椅子にかけて考えごとに没頭した。
「そろそろお時間が」
わたしとわたしのマネージャーが言った。
「決めた」
と大声を出してカメラマンが立ち上がった。
「何でしょうか」と、マネージャーが訊いた。
「今回のテーマは、自己愛の可視化にするんだ」
「自己愛の可視化?」
「そう。君は自分が好きで好きで自分と暮らすことを夢に見ている。ある日、その夢がかなって、君の前に君が現れる。君は好きな自分を自分の目で見るんだ。君は夢がかなってうっとりとしている」
写真集の撮影が始まった。
双子グラビアなどというものは、ほとんどないに等しい。
そうなると、「同一人物グラビア」なんてまずないだろう。
なので、自分のために「同一人物グラビア」を創ってる。
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