紗綾がふたりいる。
「あなたは紗綾」
と片方が聞くと、もう片方は首を縦に振る。
「あなたも紗綾」
ともう片方が聞くと、片方も首を縦に振る。

夏。

ふたりの紗綾が朝早い避暑地で散策をしている。
朝起きたら、ベッドにはもうひとり誰かが寝ていて、ベッドの上にはふたりの紗綾がいたのだ。
羽を伸ばそうと親の別荘にただひとりやってきた紗綾は、2日めの朝にふたりに分かれてしまったのだった。
二人して思い悩んで父親に連絡をした。
「あたし、二人になっちゃったんだけど」
片方の紗綾が携帯電話で勢い込んで言う。
「そうだろうな」
意外なことに、父親は驚いた風ではなかった。
続けて、紗綾にはよく分からないことを言った。

実験が成功したんだ。
うちの別荘が最適な座標軸だとわかって、我々は密かに準備したんだ。並行する世界に通じるドアを開けることができたんだよ。そのドアからもう一人の紗綾がやってきたんだよ。

自分たちが隣り合った世界にいることはわかった。
「とは言っても」

途方に暮れる。

実験が成功したんだ。
うちの別荘が最適な座標軸だとわかって、我々は密かに準備したんだ。並行する世界に通じるドアを開けることができたんだよ。そのドアからもう一人の紗綾がやってきたんだよ。すごいじゃないか。

自分たちが隣り合った世界にいることはわかった。
「とは言っても」

途方に暮れる。