しばらくキスをしていたけど、仲居さんがきたのでどうにか止めた。

ホテルの人には、事務所とマネージャーからじゅうぶんに根回ししてあるので何も訊かれない。
いちおう名の知られた芸能人の柏木由紀が泊まってて、しかもその柏木由紀がもうひとりいるのに、みんな平気な顔をしている。

テーブルにずらりと並んだ食事をつつきながら、柏木由紀は柏木由紀と〈ひとりごと〉をやり取りする。
なぜひとりごとかというと、自分の言いたいことをもうひとりの自分が言うからだ。

「しかしなんであたしたちはふたりになっちゃったんだろう」
「気がついたら、ベッドのとなりにあたしのとなりに」
「あたしがいたんだから、そりゃ驚くよね」
「でも、パニックになるって感じじゃなくて」
「なんか、ありそうだなって思ったよね」
「そうね」








じぶんがふたりになって気がついたのは、じぶんが〈自分好き〉ということで、ひと目がないと、ふたりしてセックスをしている。
している、なんてものじゃなくて中毒のようになっているのだ。
なにしろ自分と自分なので、責める場所はよく知ってる。